彼は見た。男がさなぎになってしまうのを。
その男は、くたびれたサラリーマンで夜中の十一時頃、口から糸を吐きたした。ぬめぬめとした糸にからまって、そのまま眠ってしまった。なぜ、さなぎになったのだろう。繭は酒臭く、あまり綺麗ではなかった。この周辺にいるはずの蝶々博士に電話をして、「さなぎ」がいるよと教えてあげようと思ったが、きっとかれはくたびれたサラリーマンの繭の姿など見たくないというに違いない。
パチンコ玉を弾いては、財布のなかの小銭は手品のように消えてゆく。
世の中不思議なことでいっぱいだ。
表にでているのは操り人形だということを、君は知っているか。人形なんて見たって面白くない。操っている奴がどんな奴なのか、気になってしょうがない。
十九世紀の風刺画に描かれている資本家のような、そんな絵に書いたような人が電車のつり公告にぶらさがっている。なぜ、あの人は写真ばかりで、テレビの生中継にでないのだろう。ポートレートになりすましている人は、動く姿を見せたがらない。せっかくアイドルになったのに、見せ物になりかねないことを心得ているからなのだろうか。
東京の縦横無尽に走る交通網のデット・スポット。昔から、そのデット・スポットに爆弾を投げると御利益ことがあると、囁かれているのに、まだ誰も投げていない。彼は、ためしに、石ころを投げてみた。でも、デット・スポットに届く前の池に落ちて、すこししょんぼりしたのだった。
友だちなんかいらない!じゃまだ。彼は幸せになると喜び、落ち込むと悲しむ。絶縁状を送りつけようかと思ったが、「拝啓時下ますますご活躍とお慶び申し上げます」と書いてるうちに、絶縁状ではなくなってしまった。
苦虫をかむ、と分かっているのなら、なぜかむのだろう。いにしえ人は不思議なことをするものだ。虫を食らうといえば、桃を呑気に食らっていると、白い虫まで食らってしまった。思わず吐き出したものの、べつに不味くはないなとも思った。
手当たり次第に手紙を出した。反応があったのは、福島県に住む男。なぜかこの人は、難しい文章を書くくせに、文の終わりが「。。。」と三つつづく。三は古来からの謎の数字。三拍子で音楽を奏でるとワルツを踊りたくなる。グリーン・スリーブス。日本の民謡に三拍子はあるのだろうか。三代目はばか息子。家光も実はばか息子であることを、「王様の耳はロバの耳!」と叫びたい。
とこで、さなぎになったサラリーマンは、酒臭い繭からむっくり立ち上がり、何なるかと思ったら、やっぱりサラリーマンであった。