80年代当時ティーンエイジャーだった私がお答えしましょう! あの時代のギターキッズはエディ・ヴァン・ヘイレンの何に衝撃を受けたのでしょうか。
ライトハンド奏法? 当然です。高速で生み出される華麗な音の粒は衝撃的でした。でも、他にもあるんですよ。それは……、笑顔でヘヴィメタルをしていたお姿にです。え、なにそれと思うでしょうか。
70年代から80年代初頭にかけての風景を思い返してほしいんです。ああ、あのころと言えば、ケバい白塗りをしたKISS。ステージで生きた動物をかみちぎるオジー・オズボーンらが人気者でした。音楽雑誌を開けば、ヘヴィメタルは怖い顔をした人たちの写真でいっぱい。日本でいえば聖飢魔II。
というわけで80年代当時、ティーンエイジャーの脳内には
- ヘヴィメタル=白塗り
- ハードロック=白塗りをしていない
という図式があったように思います。
ヘヴィメタルがダサかったのは見た目だけでありません。アルバムのタイトルも怖い。『地獄のさけび』『地獄への接吻』(KISS)、『鋼鉄の処女』(アイアン・メイデン)、『狂熱の蠍団 』(スコーピオンズ)……などなど。
ヴァンヘイレンのデビューアルバム『炎の導火線』(1978年)のネーミングにもメタル感を漂わせるダサさがあります。彼らの見た目はピチピチのスパッツを履き、上半身は裸。図太くひずんだギターサウンド。ところが、おや……。彼はステージで生きた動物を食いちぎったり、デーモン小暮閣下のような歌舞伎役者風のメイクもしたりしていません。ステージではギターの名手ぶりを披露しながら、ニコニコな笑顔で走り回っていたのでした。
少年少女はエディの流麗なプレーに聴きいり思ったのです。「そうか……。笑顔でギターを弾いてもよかったんだ……」「ふつうに上手でいいんだ」「メイクの勉強しなくていいんだ」「鳩やコウモリの生き血をすすらなくてもいいんだ」、と。
つまり、エディは「ヘヴィメタル」の定義を変えてしまったのです。
あれから30年。当時の少年少女もすっかり大人になりました。ヘヴィメタルから白塗りを連想することも少くなってきましたね。