この日、最も衝撃を受けたのは「パグパグ」のお話でした。それが、フィリピンのゴミ捨て場で暮らし、子育てする女性にとって一番つらいことなのだそうです。
7月24日、東京・千代田にあるコワーキングスペース(共用オフィス)のLIFULL HUBで、認定NPO法人アクセス(京都府京都市)・野田沙良(さよ)事務局長が講演をしました。アクセスは同国の貧困層の子どもや女性の支援に取り組む国際協力NGO。この日の講演は「『生きる力』で子どもを守る」と題して、子ども達の貧困を巡って参加者と意見を交わしました。
現代的なビル群とスラム街が混在する世界
公用語が英語であること等の強みを持つフィリピンは2018年の実質成長率が約6%[1](日本の実質成長率は2020年度1.2%)と発展し、世界から新たな投資先として注目を集めています。その一方で、国内では極端な格差が広がっており、野田さんは学生時代に同国を初めて訪れたとき、現代的なビル群とスラム街が混在する都市景観に衝撃を覚えたそうです。
パグパグの悲しみ
野田さんは大学を卒業後、同国に引っ越しし、ゴミ捨て場で暮らす女性と友だちになります。冗談を言いあえる親しい仲にまでなり、暮らしの厳しさも少しずつ話してもらえるようになりました。ゴミ捨て場で暮らす女性にとって一番つらいことは、子どもにパグパグをしなくてはならないことだと語ってくれたそうです。
パグパグとは、拾ってきたフライドチキンなどの食べ残しを水で洗い、油で揚げ直しておかずにすることです。それが体に悪いことは分かっているものの、母親たちにはちゃんとした料理を作るお金がありません。子どもはお腹を空かせており、肉を食べたいとせがむこともあります。限られた選択肢のなかで、どうしてもパグパグをしなくてはならないときがあり、親としてそれが一番つらいと心の内を明かしたのだそうです。野田さんはこのときに「頭のなかで理解する貧困」が「感情で理解する貧困」に変わったと語りました。
野田さんのライフストーリー
フィリピンの貧困層のために奔走する野田さんですが、中学・高校生時代は内向的な性格だったため自分自身が生きることに必死だったと語ります。この日は野田さん自身のライフストーリーも語られました。
『ラングーンを越えて』と『神の子たち』
生きる目的が欲しかった十代の頃の野田さんは映画を通して生き方の着想を得ていたと話しました。女性の医師・ローラ・ボーマンの実体験を踏まえてミャンマー民主化運動を描いた米国映画『ラングーンを越えて』(ジョン・ブアマン監督)からは、勉強をしてスキルを身につければ人の役に立てる人間になれるかもしれないと感じたそうです。フィリピンのパヤタスゴミ捨て場に暮らす家族の姿を描いたドキュメンタリー映画『神の子たち』(四ノ宮浩監督)との出合いはフィリピンの子どもの貧困を減らす仕事に目を向けるきっかけになりました。
学生時代に同国の貧困層を巡るスタディツアーに参加するなどで現状を知るものの、国際協力の仕事の即戦力となるために、さらに力つける必要も感じます。いったん一般企業への就職等を経験し、アクセスでの活動につなげてゆきました。
子どもの教育プログラムと生きる力
この日は他に、子ども教育サポーターが年間1万5千円を寄付することで貧困家庭の子どもたちの小学校卒業を支援する「子どもの教育プログラム」の活動内容も紹介されました。
学校へ通っていない子どもたち(5~17歳)は世界で約3億300万人[2]いて、野田さんによるとフィリピンにおいては約360万人なのだそうです。約360万人と言えば、静岡県の人口が約370万人[3]。日本における不登校の児童生徒数は約14万人[4]なので、この約25倍です。
子ども教育を支援するサポーターには子どもからの写真・手紙・報告書を受け取り、成長を感じることができるインセンティブがあります。
WHO(世界保健機関)が定める10のライフスキル(情動対処/コミュニケーション/対人関係/創造的思考/批判的思考/問題解決/意志決定/他者理解/自己認知/ストレス対処)を「生きる力」と捉え、子どもを守る活動を展開。子どもの権利セミナーや子どもたちの補習授業をする取り組みが話されました。
会場の参加者からは「スラムから抜け出るには何が必要で、どのような方法があるのか」「スラム街で絶望して自殺を図る人はいるのか」等の質問がありました。
子どもの教育プログラムでは日本からのサポーターを募っているようです。興味を持たれた方は、アクセスのホームページを訪ねてみてはいかがでしょうか。