梅雨空の6月はつらいものです。洗濯物が乾かないからではありません。近所の青果店で国産レモンを見かけなくなるからです。
ここは東京都23区の最南端。町工場が点在するありふれた町です。黄色くてごつごつした、国産レモン、が手に入りません。あれがありませんと、いまひとつ気分がしゃきっとなりません。国産レモンとは「ポパイのほうれん草」「ドラえもんのどら焼き」「グーグーガンモのコーヒー」のようなもの。
近所で青果店のおやじが言っていました。
「もう国産レモンの季節はおわりだね。これからしばらくはアメリカ産ばかりさ。しばらく待っていれば、今度は青い国産レモンが入ってくるよ。値段は高いけどね」。
日本国内で流通するレモンのうち88パーセントが輸入レモンと言われています[1]。主な産地はアメリカやチリです。ドイツのアロマテラピスト、スザンネ・フィッシャー・リチィはこう書いています[2]。
レモンの木は暖かさと光を(オレンジの木より寒さに弱い)たっぷり必要とするので、決して影になる場所に植えてはならない。
いままさに初夏に向かおうとしているこの季節。暖かさと光あふれる時季に、どうして国産レモンが姿を消してしまうのでしょう。むしろ、レモンにとってはうってつけの季節ではないのでしょうか。
理由は日本の収穫サイクルにあるようです[3]。5月ごろ開花した国産レモンは晩秋に収穫されます。東京都中央卸売市場の取扱数を調べてみました。
広島産は5月から10月まで下降の一途をたどります。入れ替わるようにアメリカ産が増えてきます。その後、広島産は秋になると収穫を迎え、市場に出回りはじめます。
国内の栽培地域も限られています。広島県、和歌山県、四国、九州地方など。レモンは高温多湿が苦手です。破傷病など病気にかかるリスクもあります。
とはいってもなあ。国内産じゃないと困るんだよなあ。私のレモンライフは、皮ごとの利用で成り立っているんだもの。
レモン水、レモンの砂糖漬け、料理の香辛料。はては、疲労回復のために、そのまま口に放り込みます。ホットケーキの具材のとして、レモンの砂糖漬けを練り込むのは、最近編み出した最高のおやつ。レモンの香気はぐったりした心地のときにぴったりで、気持ちもよみがえってきます。
切り落とした上下の果皮も捨てません。お風呂で使います。湯船であの清涼感のある酸っぱい香りにうっとりとしてしまう。刺激的な香りにもかかわらず、瞑想(めいそう)的な気持ちになってくるから不思議です。このように余すところなく利用しています。
あの「つるり」とした肌ざわりの海外産ではだめなのです。ごつごつとした国内産を使うことにしています。なぜなら、輸入農産物には収穫後に殺虫剤、殺菌剤、防かび剤などが使用されることがあるから。これを「ポストハーベスト」と言います[4]。残留農薬の健康被害は心配です。一方、日本では収穫後の農薬使用は禁止されています。
このように産地にこだわると、国産レモンは年中出回っていないことを思い知ることになります。
アメリカ産の果皮には、たいてい「S」からはじまる商標シールが貼ってあります。皮を削ったり、洗い方を工夫したりすれば、輸入レモンも使えなくもありません。しかし、できることなら皮も安心して使える国産レモンを買い求めたいものです。
6月末にとった有給休暇のこと。妻に使いを頼まれました。私と妻が「ロックな八百屋」と呼ぶロケンローな青果店へ、望みをかけて足を運ぶことにしたのでした。(続く)
【脚注】
- 日本に流通するレモンと輸入レモンの割合、輸入国|ナチュラルフードライフ 〜パワー溢れる体作り〜 |マイティ ↩
- スザンネ・フィッシャー・リチィ『天の香り』手塚千史訳、あむすく、1994年 ↩
- 木下繁太朗『クスリになる野菜・果物』主婦と生活社、1993年 ↩
- 阿部絢子『これで安心!食べ方事典』筑摩書房刊、2004年 ↩