珈琲生豆鑑定士の岩崎泰三さんに聞いてみた
寺山修司は、
「ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲はかくまでにがし」[1]
なんて苦そうな短歌を作ったけれど、口にしたのがコスタリカコーヒーだったならフルーティーな心持ちになったことだろう。先日ホテルオークラで珈琲生豆鑑定士の岩崎泰三さんに、コーヒーをめぐるお話を聞くチャンスがあった。
分けていただいたコスタリカコーヒは、とても個性的でした。家に持ち帰ると、もう部屋中、フルーティな香りでいっぱい。脳に沁み渡るコーヒーアロマ。お。これはなかなか。と声を漏らした。
果物っぽい酸味豊かなコーヒー豆になるのは、コーヒーの木から果実を収穫したあとの処理が違うから。すなわち、豆の乾燥。通常は、コーヒーの木からサクランボのような果実を収穫後、甘みのある果肉を洗い流して豆だけを乾燥させる。
ところが、今回のコスタリカコーヒーは、果肉をわざとつけたまま乾燥させたもの。豆に糖分を吸収させる工夫をしている。
なるほど、美味しい理由はわかったけれど、果肉がついたままだと乾燥で手間暇かかりそう。
コスタリカコーヒーをはじめて飲んでみた
岩崎さんからは、浅いりと深いりのお話を聞いた。ハリオの円すい形ドリッパーを愛用するサードウェーブ男子たる私は、浅いりに適したホワイトハニー精製の豆を分けていただくことにした。
酸味と聞くと敬遠しそうな人もいるかもしれないけれど、もちろん酢のような酸味とは違う。中米産には、レモンやグレープフルーツを思わせるシトラス系の酸味のコーヒー豆もあるけれど、コスタリカコーヒーはこれとも違う。マスカットやグリーンアップルのような、非常に清涼感のある爽やかさ。ビューティフルでごわす。
浅いりコーヒーのコンセプトは、果実としてのフルーティさを楽しむことだと岩崎さんは説く。コクとは違った酸味が特徴的。あったかい状態で淹れるとフレッシュな酸味となり、温度がさがるとピーチややアプリコットのような甘さのある酸味が生まれる。達人になれば、味のコントロールもできましょう。
出来上がりは甘く、まろやかで酸味のある質感。サードウェーブ男子の私は、これなら、ワイングラスで飲んでもよさそうに感じた。訛りをなくした東北人である私には、コスタリカコーヒーかくまでにがくなかったよ。(記事中の写真も筆者)
【脚注】
- 『ロング・グッドバイ』寺山修司、講談社、2002年、P166 ↩