飛行機のなかは、いつ喧嘩が始まってもおかしくない世界?
2000年代はじめに流行した、黒船で来航したペリー提督のマッド動画[1]を覚えているでしょうか? 牛丼通のペリーは、牛丼屋の殺伐とした様子を語ります。
Uの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、 刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃないの
出典:ペリーの吉野家 – YouTube、(閲覧日:2017年5月7日)
あれから十数年を経た2017年、いまでは牛丼屋よりも飛行機内の方が殺伐としているようです。POLICEと書かれたジャケットを着た男たちが、乗客をボコボコにしています。
https://www.youtube.com/watch?v=MFYVqg_yMJEユナイテッド航空による「強制引きずり下ろし」は、いまから1か月前、アメリカ東部時間4月9日におきました。「オーバーブッキング(過剰予約)」のため、航空会社が下りる乗客4名を指名。しかし、この中の一人が下りるのを拒否。すると、保安係官によって坐席から手荒く引き離なされ、ひきづられ、飛行機から放り出される流血の事態になってしまったのです。女性客の悲鳴も聞こえ、騒然とした様子が伝わってきます。
乗り合わせた乗客が撮影した動画はSNSで瞬く間に世界中に拡散し、ユナイテッド航空は世界中から避難を浴びることになります。無残にひきずられる乗客を見て、私も震え上がりました。なぜなら、ちかぢか人生初となる、飛行機の旅を構想していたからです。
企業の悪評も一過性
この出来事が起きて間もなく、英国の経済紙・フィナンシャルタイムズは、この企業の悪い評判も一過性で終わるだろうと分析していました。
ネットでは航空会社を変更すべきだと多くの発言が飛び交っている。しかし、結局、正しいのは市場のようだ。顧客の関心は航空券の価格や便利さ、それに空席の有無だ。非人間的に扱われることは、これまでもまれだったし、いまやその可能性は一段と低くなりそうだ。大部分の乗客はほどほどの価格で行きたい場所に行ければ、どの航空会社でも構わないのだ。
出典:2017/4/21付日経新聞より
あの出来事から今日、およそ1か月が過ぎました。いまでは、ユナイテッド航空の話題は、日常生活でものぼりません。メディアでも聞かなくなりました。フィナンシャルタイムズが予言したとおりです。「人の噂も七十五日」と言うくらいですから、もうひと月たてばすっかり過去の話題になりそうです。
この恐ろしい光景をさらしたユナイテッド航空ですが、実際に安心して乗れるのでしょうか? このユナイテッド航空こそが安心と解説するのは、2万1000時間を超える総飛行時間の経験を持つ元日本航空機長、杉江弘さんです。
「安全性ということに限ればアメリカの航空会社、しかも大型機で運航している便に乗れば安心ということができる」[2]と著書『乗ってはいけない航空会社』で言っています。
安全性にこだわるならアメリカ路線はもちろんのこと、例えばアジア路線でもアメリカの航空会社と使用機材をチェックすればよい。それは、ユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空、USエアウェイズ等どれをとっても大差ない。
出典:杉江弘. 乗ってはいけない航空会社 (Kindle の位置No.2598). 双葉社. Kindle 版.
7つのチェックで航空会社を見る
ユナイテッド航空が安全だという指摘に、私は意外な印象を受けました。杉江さんは、安全性に大きく影響を与えるポイントとして、次の7つをあげています。
- パイロットの判断力と技量
- 管制官の技量
- 空港の設備
- 経営者の安全への理解
- スタッフの労働環境
- 運輸当局の知識と航空会社への指導力
- 国の安全文化
現在は、世界的なパイロット不足にあります。それにともない質の悪いパイロットを寄せ集めた航空会社が増えている。残念な航空機事故は、こうしたパイロットの質の低下が反映されていると杉江さんは指摘します。このような時勢にあっても、アメリカの航空会社のパイロットには信頼が置けます。パイロットの昇格制度がその理由です。
エアラインパイロットは、最初は小型機から経験と実績を重ね、中型機そして最後に大型機へと昇格し、それにつれて給与等の待遇も良くなる仕組みである。そのような事情から、アメリカでは経験も長く実績を積んで技量が優れている者だけが、大型機の機長になれるのである。
出典:杉江弘. 乗ってはいけない航空会社 (Kindle の位置No.2594). 双葉社. Kindle 版.
映画にもなった「ハドソン側の奇跡」のように、緊急事態でも奇跡の生還を果たした事例は、ほとんどがアメリカの航空会社です。
今回悪評を買ったユナイテッド航空にも、奇跡の事例があります。1989年のユナイテッド航空232便不時着事故[3]です。(JAL123便・御巣鷹山事故のように)すべての油圧を失い、糸が切れた凧状態で空港までたどりつき、緊急着陸を試みて大破した事故です。すべての油圧系統を失い操縦不能になりながら、生還を果たしたのは世界の航空史上初めてと言われています[4]。
著者は「本当のエアラインランキング(安全度)トップ20」として、次の上位3社を選びました[5]。
- ユナイテッド航空(アメリカ)
- デルタ航空(アメリカ)
- キャセイパシフィック航空(香港)
ユナイテッド航空は、安心度で堂々の1位なのでした。旅の初心者である私は、航空会社えらびには、リスクで「究極の選択」があると感じます。
- 保安係員に強制引きずり下ろされる
- 飛行機事故(墜落など)に遭遇する
1と2,どちらがマシかといえば、墜落するよりは「強制引きずり下ろし」の方がマシです。
飛行機の旅って、大変…。ふたたびペリーの言葉が脳内でこだまします。
向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、 刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃないの!
【脚注】
- ペリーの吉野家 – YouTube ↩
- 杉江弘. 乗ってはいけない航空会社 (Kindle の位置No.2598). 双葉社. Kindle 版. ↩
- ユナイテッド航空232便不時着事故 – Wikipedia ↩
- 杉江弘. 乗ってはいけない航空会社 (Kindle の位置No.2194). 双葉社. Kindle 版. ↩
- 杉江弘. 乗ってはいけない航空会社 (Kindle の位置No.2520). 双葉社. Kindle 版. ↩