福田和也監修による『「文豪」がよくわかる本』。これがあれば、けっこうな暇つぶしになります。2016年4月に宝島社より刊行されました。320ページもあるのに、本体価格はたったの1000円。
帯には「姪をはらませた島崎藤村」「夫・息子・愛人と一つ屋根の下で暮らした岡本かの子」「親友に妻を寝取らせた谷崎潤一郎」「禁欲の裏で春画収集に精をだしていた宮沢賢治」とセンセーショナルな文言が並びます。
でも紐解くとわかるのですが、実はマジメに書かれた文学の入門書であり、「国語便覧」です。迷った時の「人生の目録」、文学的な価値を知る作家版「会社四季報」といった具合に、それぞれの用途で活用できます。
ところで、わたしたちは、どうして本を読むのでしょう?
本を通して「間接的に人の話を聞く」のが、読書の楽しみです。だって、友だちや家族に、人生に関する重い話題ばかりしていたら、きっとうざがられてしまうでしょう。しかし、読書にはそういうことがありません。
どうせ読むなら、評価が定まった本を読んだ方が得です。文豪が書いた作品なら、会話力も向上します。しかし、良書は無数にあるので、何を読んだら分からない事態も生じます。そんなときに、「国語便覧」の類いが役立ちます。そこで『「文豪」がよくわかる本』の出番なのです。作家の「プロフィール」「恋愛観」「趣味特技」といった項目が並び、美男美女風のイラストが添えられています。一人の作家に割かれたページは4〜8ページ程度で、解説はコンパクトにまとまっていて、作家の姿をイメージしやすくなっています。
作品の解説や作家の人生を流し読み、ふと、次のように思いました。情欲に身を任せて生きる人生は、はたして幸せなのだろうか。
ここで、思い出すことがあります。私には70歳を過ぎた画家の友だちがいるのですが、彼はときおり「あー、いまのオレは女ひでりだ!」と呟くことがあります。彼はハンサムであり、しかも経営者という華麗なキャリアを持つ一方で、糸の切れたタコのように所在ありません。あっちの女に手をつけ、こっちの女に手をつけで、女癖が悪い。この、70歳を過ぎたじいさんから「女ひでり」なんて言葉がでると、私は目の前がまっくらになります。情欲に、終着駅はないのでしょうか。
人それぞれに、人生の理想があります。私は、魂の落ち着き場所は一カ所あれば、十分に良いのではないかと感じます。そして、その一カ所の落ち着き場所は、出会えるか出会えないかの、とても尊いものなので、それを見つけえたなら、全力で大切にするべきだと思うのです。
『「文豪」がよくわかる本』を読むと、生涯の伴侶と仲むつまじく暮らした泉鏡花の人生などは、手本になりそうです。というわけで、私は泉鏡花と再会し、興味を持ち、本を手に取ろうとしています。このように、『「文豪」がよくわかる本』はとても便利で、楽しくなります。いわば、文豪に出会える本なのです。