人は誰しも、愛する人とくっつきたいと思うもの。キスだったり、ハグだったり。短編映画『The Separation』(分離)に登場する二人の場合、正気と思えない方法で結合しようとしました。
ロバート・モーガン『The Separation』の陰鬱
『The Separation』は2003年に発表されました短編映画です。監督のロバート・モーガン(Robert Morgan)によって、陰鬱(いんうつ)な執着が描かれています。
主人公の兄弟は、結合双生児。魂も安らぐ平和な子ども時代をすごしました。いつもうっとりと肩を組み、ことばを交わさなくても思いを伝えます。この幸福な時間は、突然終わりを迎えました。望まない手術で分離されてしまったのです。
術後の二人は、苦に満ちた世界へ追放された罪人のように、人形を作りながら陰気に暮らしています。あれほどの恍惚(こうこつ)していましたのに、うそのようなよそよそしさです。
二人の体には、手術痕があります。傷あとをチラ見せされますと、二人はつながりたい欲動に支配されてしまいます。おさえがたい性欲と同じです。しかし、手術痕は生殖器でありませんので、工夫をしませんと結合できません。
いやおうなく、慢性的な「寸止め」が続きます。狂おしいフラストレーションに身を焦がし、正気とは思えないアイデアで合体を試みます。その結果、狂気を引き起こしてしまうのでした。
恐ろしい出来事のあとも、かつて自分たちがいた魂の故郷への思いを断ち切れません。愛する人への、いつまでも変わらない思いと同じです。
片われへの執着は醜く、恐ろしく、悲しい。一方で、不思議な美しさも感じます。奇妙な物語ではありますが、これも恋や愛の物語にほかなりません。
合体してもとの姿に戻る人間
ギリシャ神話では、もともと人間の姿は、手足が4本、頭が2つだったと伝えています。この生き物(アンドロギュノス)は万能でしたが、悪事ばかりしていました。とうとう、神の怒りを買って、カラダを半分に引き裂かれてしまいす。そこで生まれたのがいまの人間です。「男と女」、「女と女」、「男と男」の3つのタイプが誕生しました。先の兄弟の場合なら、三番目のタイプです。
人間はもともとの万能な姿に戻りたいので、一部分を探し続けます。自分に似ている人を見つけると、つながりたくなります。回りを見渡せば、ごくありふれて存在する欲望です。ただ、度を超すと映画のような事件になってしまいます。
参考にした主な資料、関連ページ:THE SEPARATION – YouTube