2016年1月20日、新メディア「BuzzFeed Japan」(バズフィードジャパン)の発表記者会見が行われた。
ニュースサイトのバズフィードジャパン(東京・港)は20日、日本版のサービスを始めたと発表した。政治やエンターテインメントなど幅広い分野を独自に取材し、1日20本程度の記事を配信する。利用は無料で広告収入で運営する。
編集長には朝日新聞社出身の古田大輔氏が就任した。バズフィードは2006年に米国で設立。記事を交流サイト(SNS)を通じて広めるのが特徴で、月間利用者は世界で2億人を超えるという。
乱立するバイラルメディア界に、とうとう真打ちが登場した。有象無象のバイラルメディアにとっては、脅威に違いない。
BuzzFeedはバイラルメディアの象徴だった
BuzzFeedは、2006年にアメリカで誕生したバイラルメディアの先駆け的な存在だ。バイラルメディアに抱く一般的なイメージは、例えばYouTubeなどで話題になっている動画を、Facebookなどで紹介し、脅威的な数で拡散させて広告収入で儲けるスタイルだろう。多くのバイラルメディアは、独自ダネを配信することはほとんどない。
記事をシェアさせるために吐き出された膨大な記事には、広告記事が忍ばされている。読者たちはこの広告記事もシェアし、友人知人へ拡散させる。この種の広告を、「ネイティブアド」というが、これがバイラルメディアの主要な収入となっている。
BuzzFeed自体は、いまでは政治からビジネスに至るまで独自ダネを発信できるメディアとして成熟を遂げている。厳密には、すでにありきたりな「バイラルメディア」ではないのかもしれない。
BuzzFeedはバイラルメディアとしての成功事例として語られることがある。Facebookでは、シェアされたネコや犬の記事に出くわすことがある。これもBuzzFeedの真似したメディアがエンゲージ(シェアの数)を稼ぐために行っているのだから、われわれは間接的な影響力を目の当たりにしていると言える。
バイラルメディアの多くは、メディアとしての成熟をめざしていないように見える
バイラルメディアが配信する話題には傾向があり、イヌやネコの心温まる話だったり、動物愛護のお涙頂戴物の話だったり、愛国心を煽るような話だったりする。といっても、執筆者や運営会社がリベラルな思想の持ち主だったり、逆にナショナリストとは限らない。主義や思想ですらトレンドと位置づけてしまうほどのバブリーな集団なのだ。
犬でもネコでも、とにもかくにもシェアさせることが大事なので、メディアとしての主張の一貫性は二の次になりがちだ。「バズれ」ば良いので、一般的なバイラルメディアに編集方針というものは存在しないし、まして企画力がある編集者や編集長は必要とされない。こうしたメディアがはき出す一貫性のない情報は、いずれ飽きられることは容易に予測されるが、メディアの事業が行き詰まればゲーム事業でもやれば良いと思っている節も感じる(まるでミクシィがゲームで復活を遂げたように!)。このあたりは、Gunosyがゲーム事業を視野にいれた事業展開からも見えてくる気がする。
バズフィードジャパンは違っている。編集長に朝日新聞社出身の古田大輔氏を迎えたことからも、生き残るためには、メディアとして成熟することが必要だと認識しているのかもしれない。
Gunosyの株価からバイラルメディアの行く末をうらなう
一時は2,140円(2015年5月7日)の高値をつけたGunosyの株価は、2016年1月21日のお昼現在、500円台にまで下落している。Gunosy の社会的評価を分析することで、バイラルメディアの象徴的な価値を探ることができるだろう。まとめ記事を更にまとめるGunosyの存在は、バイラルメディアの総本山のような立ち位置である。
Gunosyの株価の値動きには特徴がある。日経平均株価の動きとの連動は感じさせず、2015年の上場から今日に至るまで、静かな下落をし続けていることだ。この動きは、バイラルメディアの流行そのものとして重ねて見ることができるかもしれない。
BuzzFeed日本上陸でGunosy株価の下降はやや加速
Gunosyの株価の下降傾向は、BuzzFeedの日本上陸で、やや加速気したように見える。一般的なバイラルメディアと老舗のBuzzFeedでは、メディアとしての信頼が違うだろう。
バイラルメディアの記事はどのように生み出されるのかと言えば、例えばクラウドワーキングサービスを使い、ひとつの記事が500円になるかならないかのようなギャラで買い叩く。膨大な記事から、さらにヒットしたものをGunosyが独自のアルゴリズムを用いて抽出する。各バイラルメディアが提供するアプリの作りを見ると、Gunosyのアプリに驚くほど似ている。「まとめのまとめ」の立ち位置を奪うことが、2015年春頃にはバイラルメディアが到達するべきゴールとして考えられていたかもしれない。しかしながら、この「まとめのまとめ」のような曖昧なビジネスモデルは、いまでは古臭いものになりつつあるかもしれない。
たとえば日経新聞内には「超サクッ」というページが設けられている。キュレーションメディアやまとめサイトのノウハウを研究し、自社が配信する情報を、自社でまとめているのだ。
YouTubeなどで他人が配信したコンテンツを、あたかも自分たちのコンテンツであるかのように配信することは、著作権の問題と背中合わせである。まとめのノウハウはとても有益だが、他者のコンテンツを配信するバイラルメディアのスタイルは、すでに古くなりつつある。一方、膨大な量のオリジナルのコンテンツ(独自ダネ)持ち、配信できるメディアは、生き残ることに有利だ。
優れたオリジナルのコンテンツを生み出すためには、指揮者がいないオーケストラが存在しないように、優れた編集長や編集者が必要である。
追記
この記事を書いた2016年1月21日、Gunosyの株価は終値497円で取引を終えた。