政務活動費問題で号泣釈明会見を開き、時の人となった野々村竜太郎県議。県議の7月7日付けブログは、1パラグラフに1つの句点「。」のみを使っている文体でした。長い文体について考えてみたいと思います。
1段落における改行と句読点
緊張感を生み出す長い文体
ののちゃん県議7月7日のブログ記事。冒頭の段落は、改行をつけず、句点「。」が1つ。
6月30日におけるサンテレビ橋本陽子記者他男性記者・カメラマン計3名による自宅周辺まで押しかけてのアポなし無許可録音録画取材等を受け、7月1日記者会見を行い、出席された全ての記者の質問に対して、3時間以上にも及ぶ時間のなかで全てお答えし、質問が出尽くしたのを確認しましたので、以後の取材は一切受けない旨表明したところでありますが、2日午前7時30分頃、記者会見に出席したテレビ局に所属していると思われる男性記者1名による自宅まで押し寄せてのアポなし無許可録画取材等約束違反があり、議員活動は勿論日常生活にも支障があり、心身ともに疲れ果てて不安で一杯で、私本人はもとより、家族や親族にまで取材が過熱する恐れがあり、知人や友人をはじめ、近隣にお住まいの方々にまでご迷惑が及び大変心苦しく思っています。
引用/2014年07月07日(月) 12時00分00秒「取材自粛申し入れについて」より
ののちゃん県議は、もともと長い文体の書き手だったのでしょうか。
もともとは短い句の文体だった
2014年03月22日の記事を読む限り、短い句で文章表現していた方のようです。
神戸女学院大学校章のクローバー型をしたチーズがポイントです!! 31日月曜までです。 休日のお出かけにいかがでしょうか? 最後まで、お読みいただきまして、ありがとうございます。心から、お礼申し上げます。
引用/2014年03月22日(土) 12時00分00秒 「コラボで創った17美味」より
したがって、7月7日記事の文体には、特殊な状況が示されているかもしれません。ビジネス文書や小論文として、長いセンテンスは悪文と通常は判断されます。しかしながら、長い文体には、面白い効果もあります。
長い文体も文学としてなら問題なし
野坂昭如
1つの段落に句点「。」が少ない文体の作家として、野坂昭如が挙げられます。『火垂るの墓』の鬼気迫る緊張感は、独特のリズムを持つ長い文体がもたらしています。
省線三宮駅構内浜側の、化粧タイル劇げ落ちコンクリートむき出しの柱に背中まるめてもたれかかり、束に尻をつき、両脚まっすぐ投げ出して、さんざ陽に灼かれ、一月近く体を洗わぬのに、清太の痩せこけた頼の色は、ただ青白く沈んでいて、夜になればぶる心のおごりか、山賊の如くかがり火焚き声高にののしる男のシルエットをながめ、朝には何事もなかったように学校へ向かうカーキ色に白い風呂敷包みは神戸一中ランドセル背負ったは市立中学、県一親和松蔭山手ともんぺ姿ながら上はセーラー服のその襟の形を見分け、そしてひっきりなしにかたわら通り過ぎる脚の群れの、気づかねばよしふと異臭に眼をおとした者は、あわててとぴ跳ね清太をさける、清太には眼と鼻の便所へ這いする力も、すでになかった。
引用/野坂昭如『火垂るの墓』冒頭
エドガー・アラン・ポー
長い文体は、狂気の表現に貢献します。エドガー・アラン・ポーの怪奇小説でも、垣間見ます。
私は眼めの前の風景を眺ながめた。――ただの家と、その邸内の単純な景色を――荒れはてた壁を――眼のような、ぽかっと開いた窓を――少しばかり生い繁しげった菅草(すげぐさ)を――四、五本の枯れた樹々の白い幹を――眺めた。阿片耽溺者(あへんたんできしゃ)の酔いざめ心地――日常生活への痛ましい推移――夢幻の帳のいまわしい落下――といったもののほかにはどんな現世の感覚にもたとえることのできないような、魂のまったくの沈鬱を感じながら。心は氷のように冷たく、うち沈み、いたみ、――どんなに想像力を刺激しても、壮美なものとはなしえない救いがたいもの淋しい思いでいっぱいだった。
引用/エドガー・アラン・ポー:『アッシャー家の崩壊』佐々木直次郎訳
日本語訳は、翻訳者によって意訳されています。原文は長い文体でした。「。」に相当するピリオド(.)が、ひとつしかありません。
I looked upon the scene before me—upon the mere house, and the simple landscape features of the domain—upon the bleak walls—upon the vacant eye-like windows—upon a few rank sedges—and upon a few white trunks of decayed trees—with an utter depression of soul which I can compare to no earthly sensation more properly than to the after-dream of the reveler upon opium—the bitter lapse into every-day life—the hideous dropping off of the veil.
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狂気の表現に適している長い文体
虚偽報告の文学表現
7月7日付け記事冒頭の段落は、次の一行に要約できるのではないかと思います。
男性記者1名によるアポなし取材は迷惑だった。
ののちゃん県議の記事の行間からは、偽られないで精神的危機を感じます。繰り返される「アポなし無許可録音録画取材」の表現、「心身ともに疲れ果てて不安で一杯」……。さまざまな単語やフレーズが交わされ、結局何を言いたいのか分からない。混乱した論旨は、混乱した精神状態を表しているかもしれません。県議自身も何を言いたいのか分かっていないのかも。自力でも他力でも這い出ることができない深い闇……。ののちゃん県議のブログから示されているのは、書き手自身も気づいていない、不条理や狂気なのかもしれません。
人の世を渡っていくためには明朗会計
人の世は、優しさと冷酷さが隣り合わせです。冴えない日々の憂さ晴らしのような、ネットによる社会的な制裁。ののちゃん県議は、清濁併せ持つ世の中をどのように渡っていくべきか、反面教師としても、私たちに示しているのかもしれません。明朗会計は、大胆な人生を生きる上で、強大な武器となりうることに気づかされました。
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