妻の足裏を揉むたび、私は目を閉じると故郷の風景が目に浮かぶ。
そして、その光景は大抵同じだ。
名取川が静かに流れる光景だ。
川は太平洋に向かってゆく。
土手沿いの風は次第に潮風になってゆく。
私は、名取川の土手沿いを自転車で走ってゆく。
イーノの曲が、タイムキーパーであった。
Music for airportsの一曲分が、片足に費やされた時間であった。
ブライアン・イーノは、70年代から80年代にかけて多くの名盤がある。
私がイーノのサウンドと出会ったのは、は十代の頃であった。
仙台に居たころだった。
イーノのサウンドは、少年時代の風景を惹起する。
名取川の河口の閖上港、地平線まで続いていそうな田畑、小さな観音堂、森、甲虫、沼…。
妻の足裏は、私を故郷へ誘うブラックホールだ。