ホテルカリフォルニア原子力発電所

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ようこそホテルカリフォルニアへ
なんて素敵な所
なんて素敵な所
なんて素敵な顔
ホテルカリフォルニアの部屋は豊富です
年中無休で
年中無休で
あなたはここで見つけることができます
あなたはここで見つけることができます
(ホテルカリフォルニア)

 時代の変わり目、無邪気で希望に満ちた時代が終わろうとしていた年のことだった。
俺は小さな安ホテルを営んでいた。海辺のホテルだった。そこへある日、都会から石売りのサラリーマンがやってきた。

 「これはとても便利な石。いつまでも熱いまま、冷めない石。ほんのひとかけらで、いつでも熱いをお湯を沸かせます。お風呂はお部屋を温めることができます。ほんのちょっとの投資で、大きな報酬。しかも安全。世界中で流行すること間違いなしの、奇跡の石」

 お試しやらで、ほんのひとかけらを買った。なるほど、小さなひとかけで、すぐさまお湯を沸かせるし、火だって起こすことができた。お試しにかかわらず、もうけすら生じた。部屋を改装し、たくさんの部屋を作った。部屋代だって安くすることができた。石は年中無休、冷めることがなく熱いままだった。ホテルはいつでも温かく、明るかった。

 ホテルは繁盛し、たくさんの客が訪れた。そして、金と女と社会的な地位を手に入れた。石は年中熱く、冷めることがなかった。

 数年たち、石売りのサラリーマンがやってきた。

 「あの石にはメンテナンスが必要です。メンテナンスのお見積もりはこのとおり」
その金額は、いままで見たこともないような高額な金額が示されていた。そんな金額を支払えるわけがないので、断った。返品は、すでに保証の期間をすぎてできず、廃棄処分の手数料すらも膨大な金が示されていた。俺は騙されたことに気付いたのだった。

 石売りのサラリーマンは、濡れたハンカチで手を拭いながらこういった。

 「では、御社の責任のもと。わたくしには、今後のことには一切関係ありません

 あなたは生きるかぎり、あの石を冷やし続けなくてはならない。あなたが死んだなら、あなたの子が。あなたの子が死んだなら、あなたの孫が。末代まで冷やしつづける人を見つけなくてはならないのです。わたしが承ることができるのは、ささやかに建物の補修と補強。あの石は、厳重に管理しなくてはなりません。あなたがお金を出さないのなら、あなたの財産のみならず、お客様の財産や命すらも燃やしてしまうこともなりましょう」

 俺のホテルの評判は、世間に知れ渡っていた。もはや昔の安ホテルには戻れない。あの石なしには保つことができなかった。俺は奥の部屋で湯を沸かし、きょうもたくさんの火を生み出した。

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この記事を書いた人

30代から美術制作を描き始めました。第35回、第34回 現代童画展入選。第20回 日本の自然を描く展 自由部門入選

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