徐航明『中華料理進化論』ジェフ・ベックと焼きそばどちらもフュージョン

焼きそばを作るジェフ・ベック(想像図) イラスト;筆者

「しゃぶしゃぶ」はモンゴルから、「天ぷら」は西洋のフリッター(洋風天ぷら)から、「コロッケ」は西洋料理のクロケットから。海外に起源をもつ日本の定番料理はいくつかある。「焼きそば」もその一つだ。

中国人コラムニスト・徐航明氏は『中華料理進化論』でこう語る。

「焼きそば」は独自の発展を遂げた料理だが、麺は中国、調味料は西洋、調理法は日本のオリジナルと、3つの要素が日本で混ぜ合わされた

徐航明. 中華料理進化論 (イースト新書Q) (Kindle の位置No.1386-1387). イースト・プレス. Kindle 版.

複数の要素が混ぜ合わされた料理を徐氏は「フュージョン料理」と名付けている。この「フュージョン」には「ダイバーシティー」(多様性)に似たポジティブな響きがある。さながら、焼きそばは料理の3社連合だ。

世間の号令になりつつダイバーシティーよりも、再発見された語感のあるフュージョンの方が野心的な響きがあって格好いいと感じた。

音楽のジャンルにも「フュージョン」という分野がある。その意味は「ボーカルなしの退屈なインストゥルメンタル」というものだった。しかし、今は必ずしもそうでない。調べてみると、この分野にも野心的なスピリットがあることが分かる。

1960年代後半から現在に至るまでのジャズを基調にロックやラテン音楽、R&B、電子音楽などを融合(フューズ)させた音楽のジャンルである。

出典:フュージョン (音楽) – Wikipedia、(閲覧日:2018年11月27日)

フュージョンで思い浮ぶのはギタリストのジェフ・ベックだった。彼の音楽は70年代後半に都会的で、洗練されたインストゥルメンタルに変化した。ハードロック・ファンには、ブルース魂を捨てたようにみえ、必ずしも好意的には受け止められなかった。私も一時期、商業的に安全な、ブルースとは無縁の世界へ転向したと感じた。

ジェフ・ベックがやろうとしてたことは、音楽の焼きそばだったのかもしれない。うまいならどん欲に取り込んでゆくフュージョン。融合(フューズ)させた音楽と捉えると、音楽ジャンルだけでなく、料理や文化の見方も変わって面白そうだ。

ジェフ・ベックはその後、エレクトロニカ、テクノロックサウンドにも接近。音楽スタイルが1か所にとどまることはない、70歳を過ぎた今も現役だ。食材を融合させ、音楽の「焼きそば」を作り続けている。

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この記事を書いた人

法政大学文学部哲学科卒。編集関係の業務に従事。金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味は絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。

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