レンガ造りの「神谷バー」(かみやバー)の前を通り過ぎると、「ここが電気ブランを作った有名な店だよ」と東京育ちの妻が言う。ご承知のとおり、電気ブランは明治時代に誕生したカクテルである。東京名所の解説を聞くと、「ほおう、ほおう」と私は素直にうなづく。東京に住んで20年以上たつのに、東北から来た観光客気分に戻ってしまう。
懐かしい人力車、しにせの和菓子屋、縁日のような仲見世(みせ)商店街。浴衣を着た外国人美女。人気の新名物メロンパンは「江戸時代に発明された和菓子です」と言わんばかりに、堂々としている。濃く煮詰めた日本をコスプレするサンクチュアリ。日本のような日本じゃないような、ここは「浅草国」だ。
浅草に来たからには、やはり雷門の浅草寺だろう。吸い込まれるように浅草寺の境内に入ってしまった。
雨の少ないカラ梅雨でも、やはり梅雨。空気が湿って気分も重くなる。浅草寺の境内はエネルギッシュに大にぎわいで、じめじめした気候とは無関係だった。自撮り棒にスマホをつけた元気な外国人観光客で、ごった返している。私たち夫婦の微少なエネルギーも吸い取られ、なんだか人酔いがしてきた。疲れてくると、2人とも不機嫌になってくる。なもので、提案した。
「そろそろ、帰ろうか。弁当も買ったし」。弁当とは、浅草の繁華街から少し離れた場所にあるオーガニック菜食料理店(かえもん浅草本店)で買った飯である。
とにもかくにも、押し合いへし合いの世界から、ほうほうの体で脱出だ。家で弁当食って元気を取り戻そうじゃないか。あ、この場合の元気は、「元氣」と綴った方が感じがでるかな。
【脚注】
- By 江戸村のとくぞう (Edomura no Tokuzo) – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link ↩