東北・北海道方面の名物で、ホヤという海産物をご存じでしょうか。東北人(たとえば私の父など)はホヤを「海のパイナップル」と称し、食べたことがない人を見つけると、大喜びで振る舞います。
ホヤが「パイナップル」に見えるのは、当の東北人だけでしょう。見た目はグロテスクで、初めて食べる人たちは、たいていギョッっとします。
私も東北の生まれのためか、グロテスクな見た目のホヤが大好物です。ひと噛みすると、口の中で磯の匂いが広がります。すると、幼い日に東北で泳いだ海の記憶が、生々しく蘇ってくるのです。仙台よりも東京の暮らしの方が長いのに。
この「匂いによって過去の記憶体験が呼び起こされる現象」を、研究者たちは「プルースト現象」と呼ぶらしい[1]。
アロマセラピストの成田麻衣子さんの近著『幸せを引き寄せる「香り」の習慣』によれば、この現象は文豪マルセス・プルーストの小説『失われた時を求めて』の一場面に由来する。物語の主人公が、紅茶のなかにマドレーヌを浸して食べようとすると、忘れていた幼少期の記憶が蘇るシーンです。まるで、私とホヤのよう…。
著者の成田麻衣子さんは「匂いの情報は、脳のなかで“感じる脳”とも呼ばれる大脳辺縁に直接届くため、嗅覚は人間の本能や感情に結びついた記憶と密接な関係がある」と説明します。
そういえば、秋になって金木犀の香りを嗅いだとき、幸せな気分になったことを思い出しました。
関連ページ:【金木犀、秋の香り】良い香りが気持ち良い理由
匂いと記憶には、やはり密接な関係がある。香りは脳に直接届くパワフルな情報。嫌なにおいは「臭い」で暴力だけど、良いにおいは「匂い」となる。上手に使いこなせば、匂いは自分や他者の気持ちを動かす力になり、「場」の空気を変える力にもなる。
本書『幸せを引き寄せる「香り」の習慣』では、香りを積極的に活用する45の方法を紹介しています。
各項目は、各2ページ前後で簡潔にまとめる。
- 自分に似合う匂いを見つけ、「気」を整える。
- 落ち込んだり、しんどいときは、好きな匂いを嗅ぐ。
- 年齢に合った「モテる香り」を身に着ける。
- どんなに好きでも、強い匂いは使わない。
- 家庭内、社内……雰囲気が悪いときは、換気&アロマスプレーで効果テキメン!
- 大切な人への手紙や贈物には、香りのスプレーをひと吹き。
- 鼻呼吸で体を活性化させ、体臭を抑える。
- お店を繁盛させたいなら、店の匂いを改善する。
- ひのきのオイルで、家に沁みついた匂いをとる。
- 玄関、トイレ、キッチン……場所ごとに、使う香りを変える。
- 「物忘れ」「うつ」「介護疲れ」「睡眠不足」「ダイエット」に、アロマ。
原因不明の疲れや、気持ちの落ち込みを感じるとき、本書をパラパラと紐解くと、解決のヒントが得られそう。良い香りで、幸せの記憶を呼び出してみたい。
【脚注】
- 成田麻衣子著,『幸せを引き寄せる「香り」の習慣』、p37 ↩