いまごろと思われるかもしれませんが、又吉直樹の「火花」を、数ヶ月かけて読み終えました。こんなに面白い文学作品だったとは思いませんでした。並行して泉鏡花や内田百閒なども読んでいたのだけど、同時代の作家ゆえか夢中になる質が格段に違う。時間の合間にページをめくる(読んでいたのはKindleで電子書籍なのだけど)のが楽しみでした。
ネタバレにならない程度に書きますと、設定されている舞台は、二流芸人が身を置くお笑いの世界。野心や不安がない交ぜです。
「面白い漫才師」と「面白くない漫才師」を書き分けたり、さまざまな漫才師を表現するのは、さすがだと感心した。主人公の徳永の師匠である神谷の漫才は、良くも悪くも痛々しい。一方、徳永が身を置くスパークスの漫才は若々しい。作家・又吉直樹は、一人で名役者と大根役者を演じ分けているみたい。
その道をマスターしようと懸命な人々は、その人生が悲劇であっても、その姿は美しく見えました。悲劇的な物語だけれど、どこかしら晴れやか。数少ないヒロインの真樹さんは愛のある描写がされていた。彼女の職業は風俗だけど、彼女の存在自体は救いをもたらす女神のようで穢れない。性的なテーマも含まれるものの、暴力的などぎつい表現はなく読後感が良かった。私は、すっかり又吉直樹のファンになってしまいました。さっそく次の著作を読んでみよう。