ある寒い夜のこと。中延方面に向かって戸越の商店街を歩いていると、地域密着型のアイドルと出会いました。
アイドルといっても、ネコです。ちっこいアイドルは、酒屋の前に座っていました。あまりにも可愛らしい見目姿なので、店先で足を止めました。通りに背を向け、入口のど真ん中に鎮座するので客が店に入れない。招きネコにしては、仕事の仕方が珍しい。
人に慣れているようで、人を怖がりません。禅僧のように、じっと動かない。
ネコが見つめている先に、酒屋のおかみさんがいました。ひたむきな姿からは、信頼、愛といったものを感じます。首輪はしていません。店の両脇には、次のように書かれたカンパ箱が置かれていました。
地域で可愛がっているネコがいます。お気持ちでけっこうです。そのネコちゃん達にお願いします。
太郎と花子のご飯代としてカンパをお願いします。
このネコのことらしい。餌代を募り、地域で育てているネコの一匹だと分かりました。ネコは不思議。何もしてないけれど、それだけで十分に愛される。むしろ何もしなくてもよい。
何もしていないことが、何かをしていること。存在自体が、素晴らしい。
あらあらと言って、おかみさんが歩いてきました。この招きネコ、かわゆくて、たまらんではないか。出てきたおかみさんとネコの話をして、ペットボトルのお茶を買って店をあとにした。地域ネコで、地域経済に貢献してしまった。そういやカンパもすればよかったな。
家に帰ってから、この話を妻にした。妻も戸越に行きたいと言う。というわけで、妻を連れて戸越へネコ詣を近々せねばならなない。そんときは、さい銭(カンパ)も忘れないようにしよう。